大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ネ)1862号 判決 1999年6月24日

東京都豊島区高田三丁目一二番七号

控訴人兼附帯被控訴人

(以下「一審被告」という。)

サンブランチ株式会社

(旧商号・株式会社ミシュラン)

代表者代表取締役

三枝俊夫

東京都豊島区高田三丁目三九番二号

控訴人兼附帯被控訴人

(以下「一審被告」という。)

三枝俊夫

両名訴訟代理人弁護士

鳥海哲郎

佐藤長英

道下崇

新家寛

フランス国、クルレモンーフェラン、クール サブロン、一二

被控訴人兼附帯控訴人

(以下「一審原告」という。)

コンパニー ゼネラール デ ゼタブリスマン

ミシュランーミシュラン エ コンパニー

代表者

ロバート ヒーベル

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

主文

一  一審被告らの控訴に基づき、原判決の主文第一ないし第四項を次のとおり変更する。

1  一審被告サンプランチ株式会社は、「株式会社ミシュラン」の標章を使用してはならない。

2  一審被告らは、一審原告に対し、連帯して金七四三万三〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年五月一一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審原告のその余の請求を棄却する。

二  一審原告の附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を一審被告らの負担、その余を一審原告の負担とする。

四  この判決の一2項は、仮に執行することができる。

五  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を三〇日と定める。

事実及び理由

第一  当業者らが求める判決

一  一審被告らの控訴の趣旨

「原判決中、一審被告ら敗訴の部分を取り消す。同部分に係る一審原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。」

二  一審原告の附帯控訴の趣旨

「原判決中、一審原告敗訴の部分を取り消す。一審被告らは、一審原告に対し、金二四三〇万四九二一円及びこれに対する平成九年五月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。」

第二  当事者らの主張

左記のとおり付加するほか、原判決摘示(五頁一行ないし一六頁二行)のとおりであるから、これを引用する。

なお、一審被告サンブランチ株式会社(以下「一審被告会社」という。)がその製造販売する持帰り用のサンドイッチ及び弁当(以下「本件商品」という。)に使用していた「株式会社ミシュラン」の表示(ただし、甲第一二号証(ラベルの写真)によれば、「(株)ミシュラン」の表示であったと認められる。)を、以下「本件商品等表示」という。また、一審被告会社は、実質上、一審被告三枝の個人企業と認められるので、この判決においては、一審被告会社及び一審被告三枝が共同して行った行為を、一審被告会社の行為として表示することがある。

一  一審被告らの主張

1  控訴事件について

(一) 原判決は、一審被告会社が本件商品等表示を使用して本件商品の販売を行ったことは一審原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為であって不正競争防止法(以下「法」という。)二条一項一号所定の不正競争に該当する旨判断している。

しかしながら、一審被告会社の業務内容と一審原告の業務内容とは、原判決認定のとおり、全く異なっている(ちなみに、世界的に権威のあるレストランガイドを発行している一審原告が自ら食品に関連する営業を行うことは、今後ともないであろう。)。また、一審原告の商品等表示が、常に、「MICHELIN」の欧文字と、タイヤを積み上げて形成した人形のマークとを組み合わせた極めて印象的なものであるのに対して、本件商品等表示の要部は「ミシュラン」の片仮名文字のみである。したがって、本件商品等表示を見た一般客が、これを一審原告の商品等表示と誤信したり、一審原告と一審被告会社との間に営業上の密接な関係があると誤信することはおよそありえない。

のみならず、一審被告会社から本件商品の卸売りを受ける販売業者の多くが、本件商品に自らの名称等を付して販売することを希望したため、一審被告会社から販売業者に卸売りされた本件商品の相当数には本件商品等表示が使用されていなかった。また、販売業者に卸売りされた本件商品及び一審被告会社が自ら一般客に小売りした本件商品(全体の約三%以下にすぎない。)に本件商品等表示を使用する場合も、本件商品等表示が記載されているラベルを本件商品の底面等に目立たないように貼付していたにすぎない。そして、本件商品を購入する一般客が、本件商品の製造者あるいは販売者に関心を持つことはほとんどありえないから、本件商品等表示が一般客の目に触れる機会は極めてまれであったのである。

以上のとおりであるから、一審被告会社の行為が不正競争に該当するとした原判決の判断は、本件商品の取引きの実情に反するものである。

(二) 仮に一審被告会社の行為が不正競争に該当するとしても、一審被告三枝は、一審原告の「ミシュラン」の表示が周知性を取得する前から「ミシュラン」の表示を使用していたものである。

すなわち、原判決はわが国において一審原告の「ミシュラン」の表示は遅くとも昭和五二年ころには周知となっていた旨認定しているが、一審原告の「ミシュラン」の表示が周知となったのは昭和五四年以降のことである。しかるに、被告三枝は、昭和五二年一月から「ミシュラン」というの店名の喫茶店を経営していたが、この店名を使用することについては何ら不正の目的を持っていなかった。したがって、一審被告らの行為について法三条ないし五条の規定を適用することはできない。

そうでないとしても、一審被告会社は、平成四年一月から三月にかけて、後に一審原告とともに合弁会社を設立した訴外オカモト株式会社に弁当を納入した。したがって、一審原告は、そのころ訴外オカモト株式会社を通じて、一審被告会社が本件商品等表示を使用していることを知ったと考えられるが、平成八年一一月までは、一審被告会社に対して本件商品等表示の使用中止の請求等をしなかった。したがって、一審原告は、一審被告会社が本件商品等表示を使用することを許諾していたと解すべきである。

(三) 仮に、本件商品等表示を本件商品に使用した一審被告会社の行為が不正競争に該当するとしても、これによって一審原告が受けた損害の額に関する原判決の認定には明らかな誤りがある。

(1) 一審原告は、当審において、一審被告らに対して賠償を求める金額について第一次的に法五条二項一号所定の額と変更したうえ、本件商品等表示の使用許諾料は一審被告会社の売上高の一〇%が相当である旨主張する。

しかしながら、世界的企業である一審原告が零細企業にすぎない一審被告会社に本件商品等表示の使用を許諾すること自体がありえないうえ、後記のように本件商品等表示の使用が一審被告会社の得た利益に何ら寄与しなかった以上、本件商品等表示の使用許諾料は、一審被告会社が得た利益のうち本件商品等表示の使用と関わりのある部分(後記のように、一審被告会社が得た利益の五六%にとどまる。)の〇・一%が相当である。

(2) 一審原告は、一審被告らに対して賠償を求める金額について第二次的に法五条一項所定の額を主張する。

しかしながら、法五条一項の規定は被侵害者が受けた損害の額を推定する規定であって、被侵害者に損害が生じたことを推定する規定ではないから、同条項の規定が適用されるためには、一審被告会社の行為によって一審原告に損害が生じたことが立証される必要がある。しかるに、一審被告会社の業務内容と一審原告の業務内容とは前記のとおり全く異なっており、両者は競争関係にないから、一審被告会社の営業によって一審原告が損害を受けることはおよそありえない。

また、一審被告会社が本件商品の製造販売によって得た利益は、すべて手作りにより本件商品の高品質を維持してきた一審被告会社の真摯な企業努力によるものであって、本件商品等表示の使用は、一審被告会社が得た利益に何ら寄与しなかった(ちなみに、一審被告会社は、かつて一度も本件商品等表示あるいは「ミシュラン」の表示を広告したことがない。)。一審被告会社は製造した本件商品のほとんどを販売業者に卸売りしているが、販売業者らは本件商品の品質を評価して一審被告会社との取引を開始し継続しているのであって、一審被告会社を一審原告あるいはこれと営業上の密接な関係がある会社と誤信して取引を開始継続しているのではない。

百歩譲って、本件において法五条一項の規定を適用するとしても、一審原告が受けた損害の額の推定の基礎となる一審被告会社が得た利益の額は、本件商品等表示の使用と関わりのある部分に限定されるべきことは当然である。

しかるに、一審被告会社が得た利益の約一〇%は、居酒屋「美酒蘭」の売上げによるものであって、本件商品等表示の使用とは全く関わりがない。

したがって、一審被告会社が得た利益の約九〇%が本件商品の販売によるものであるが、そのうち約三八%の商品には本件商品等表示が使用されていなかった。これは、一審被告会社が得た利益の三四%に当たる(0.90×0.38=0.34)。

したがって、一審被告会社が得た利益の五六%のみが本件商品等表示の使用と関わりのある部分であるから、一審被告会社が得た利益の全額を、そのまま一審原告が受けた損害額と推定した原判決の判断は明らかに誤りである。このことは、一審被告会社が本件商品等表示の使用を止めた後も、一審被告会社の売上げがかえって増加している事実からも確実に裏付けられる。

なお、一審原告は、原判決が認容した金額の年平均をもって第二次的請求の論拠としているが、一審被告会社が得た利益は年によって著しく異なっているから、原判決が認容した金額の単純な平均をもって一審被告会社が得た利益と推定するのは相当でない。

ちなみに、一審被告会社による本件商品等表示の使用によって一審原告が受ける可能性があった損害は、一審原告の「ミシュラン」の表示が有する著名度が希釈することによる損害と考えられるが、そもそも、一審被告会社による本件商品等表示の使用によって一審原告の「ミシュラン」の表示の著名度が希釈した事実はないのである。

(四) なお、一審被告会社は平成一〇年三月一四日に商号を「株式会社ミシュラン」から「サンブランチ株式会社」に変更し、同月一七日に変更登記が経由された。

2  附帯控訴事件について

一審原告が一審被告らに対して賠償を求める金額がいずれも失当であることは前記のとおりである。したがって、一審原告の附帯控訴は理由がない。

二  一審原告の主張

1  控訴事件について

(一) 一審被告らは、一審被告会社の業務内容と一審原告の業務内容とは異なるから、本件商品等表示を見た一般客がこれを一審原告の商品等表示と誤信したり、一審被告会社と一審原告との間に営業上の関係があると誤信することはありえない旨主張する。

しかしながら、大企業が積極的に経営の多角化を図っている近時の傾向に照らせば、一審被告らの右主張は失当である。

なお、一審被告らは、一審原告の商品等表示は常に「MICHELIN」の欧文字とタイヤを積み上げて形成した人形のマークとを組み合わせたものである旨主張するが、事実に反する。

また、一審被告らは、本件商品に本件商品等表示を使用する場合は本件商品等表示が記載されているラベルは本件商品の底面等に貼付されていたから、本件商品等表示が一般客の目に触れる機会はまれであった旨主張する。

しかしながら、本件商品は小さなものであって、これを手にとって底面等に貼付されているラベルを目視することは極めて容易であるから、一審被告らの右主張は失当である。

したがって、一審被告会社が本件商品等表示を使用して本件商品を販売した行為が不正競争に該当するとした原判決の判断に誤りはない。

(二) 一審被告らは、一審原告の「ミシュラン」の表示が周知となったのは昭和五四年以降であるところ、一審被告三枝は昭和五二年一月から喫茶店の店名として「ミシュラン」を使用していえ旨主張する。

しかしながら、一審原告の「ミシュラン」の表示は、原判決挙示の刊行物「東京いい店うまい店」が最初に発行された昭和四二年ころ既に周知となっていたのであるから、喫茶店の店名としてことさらに「ミシュラン」を選択したことについて一審被告三枝に不正の目的があったことは明らかである。

また、一審被告らは、一審原告は平成四年一月から三月ころ、訴外オカモト株式会を通じて、一審被告会社が本件商品等表示を使用していることを知ったと考えられる旨主張するが、そのような事実は存在しない。

(三) 一審原告が受けた損害の額について

一審原告は、当審において、一審被告らに対して賠償を求める金額について、第一次的に法五条二項一号所定の額、第二次的に法五条一項所定の額と変更する。

(1) 第一次的請求

一審原告の「ミシュラン」の表示は世界的に著名なものであって、同表示が持つ顧客誘引力は極めて高いから、本件商品等表示の使用許諾料は、一審被告会社の売上高の一〇%が相当である。そして、乙第二ないし第六号証(決算報告書)によれば、一審被告会社の年間売上高は平均すると金四億〇七七四万円余であるから、一審被告らは、一審原告に対して、一年当たり金四〇七七万円余の使用許諾料相当額の支払義務を負担する。そうすると、一審被告らは、一審原告に対して、一審被告会社の設立時から本件商品等表示の使用を止めた平成一〇年五月一一日まで七年余の間の使用許諾料相当額として合計二億八九六六万円余の支払義務を負担するに至ったから、その内金八七〇〇万円の支払いを求める(ただし、原判決において認容された金額を控除して、金二四三〇万四九二一円の支払請求を附帯控訴の趣旨とするものである。)。

この点について、一審被告らは、一審原告が一審被告会社に本件商品等表示の使用を許諾することはありえないし、本件商品等表示の使用が一審被告会社が得た利益に何ら寄与しなかった以上、本件商品等表示の使用許諾料相当額は、一審被告会社が得た利益のうち本件商品等表示の使用と関わりのある部分の〇・一%が相当である旨主張する。

しかしながら、一審原告が一審被告会社に本件商品等表示の使用を許諾することはありえないことを論拠として、本件商品等表示の使用許諾料相当額は低額でよいとする主張は、本件商品等表示の使用を許諾された者の負担よりも、本件商品等表示を無断で使用した者の負担が少ない結果をもたらすから、明らかに失当である。

なお、本件商品等表示の使用が一審被告会社が得た利益に何ら寄与しなかった旨の主張が失当であることは、次に述べるとおりである。

(2) 第二次的請求

原判決は、一審被告会社が平成四年一一月一日から平成九年一〇月三一日までの間に合計金六二六九万五〇七九円の利益を得た事実を認定しているが、正当である。

そして、右金額を年平均すると、金一二五三万九〇一五円となるから、一審被告会社は、原判決が認容した金額のほかに、「株式会社ミシュラン」の商号で設立登記された平成三年四月三日から平成四年一〇月三一日までの間に金一九八五万三四四〇円、平成九年一一月一日から本件商品等表示の使用を止めた平成一〇年五月一一日までの間に金六二六万九五〇七円、合計金二六一二万二九四七円の利益を得ているのである(この内金二四三〇万四九二一円の支払請求を附帯控訴の趣旨とするものである。)。

この点について、一審被告らは、一審被告会社の業務内容と一審原告の業務内容とは異なっているから、一審被告会社の営業によって一審原告が損害を受けることはおよそありえない旨主張するが、この主張が失当であることは前記(一)のとおりである。

また、一審被告らは、一審被告会社が得た利益の約一〇%は居酒屋「美酒蘭」の売上げによるものであって、本件商品等表示の使用とは関わりがない旨主張する。

しかしながら、居酒屋の一般客はともかくとして、居酒屋への商品の納入業者は、一審被告会社の旧商号を知悉して取引きを開始し継続したのであるから、一審被告らの右主張は失当である。

なお、一審被告らは、一審被告会社による本件商品等表示の使用によって一審原告の「ミシュラン」の表示の著名度が希釈した事実はない旨主張する。

しかしながら、一審被告会社が本件商品等表示を使用していた間、一審原告の「ミシュラン」の表示の著名度が希釈する高度のおそれが継続したことは否定できないから、一審被告らの右主張は失当である。そして、一審原告の「ミシュラン」の表示は世界的に高い著名度を有するものであって、これを金銭的に評価すれば金六三六〇億円余に達すると考えられる。したがって、一審被告会社の本件商品等表示の使用によって一審原告の「ミシュラン」の表示の著名度が希釈し、仮にその〇・一%が失われたとしても、金六億円余もの損害が生ずるのである。

2  附帯控訴事件について

前項三(1)及び(2)記載のとおりであるから、原判決における一審原告敗訴の部分について附帯控訴を提起するものである。

理由

第一  控訴事件について

一  当裁判所も、一審被告会社が本件商品等表示を使用して本件商品を販売した行為は法二条一項一号所定の不正競争に該当すると判断する。その理由は、原判決説示(一六頁七行ないし三〇頁六行)とおりであるから、これを引用する。

この点について、一審被告らは、一審被告会社の業務内容と一審原告の業務内容とが全く異なること、一審原告の商品等表示と本件商品等表示とは外観が異なること、一審被告会社から販売業者に卸売りされた本件商品の相当数には本件商品等表示が使用されていなかったこと、本件商品に本件商品等表示を使用する場合は本件商品等表示が記載されているラベルは商品の底面等に目立たないように貼付されていたこと等を論拠として、本件商品等表示を見た一般客がこれを一審原告の商品等表示と誤信したり、一審原告と一審被告会社との間に営業上の密接な関係があると誤信することはありえない旨主張する。

しかしながら、一審原告の「ミシュラン」の表示が世界的に著名なものであること(当裁判所に顕著な事実である。)に鑑みれば、一審被告らが挙げる右の諸事情は、一審被告会社が本件商品等表示を本件商品に使用する行為が法二条一項一号の規定に該当することを否定する理由にはなりえないというべきである。

二  一審被告らは、一審原告の「ミシュラン」の表示が周知となったのは昭和五四年以降であるところ、一審被告三枝は昭和五二年一月から喫茶店の店名として「ミシュラン」を使用していた旨主張するが、この主張を採用しえないことは原判決説示(三〇頁七行ないし三二頁一一行)のとおりである。

また、一審被告らは、一審原告は平成四年一月から三月ころ訴外オカモト株式会社を通じて一審被告会社が本件商品等表示を使用していることを知ったと考えられるが、平成八年一一月までは一審被告会社に対して本件商品等表示の使用中止の請求等をしなかったから、一審被告らが本件商品等表示を使用することを許諾していたと解すべきである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠は存在あしない。

三  乙第九号証(履歴事項全部証明書)によれば、一審被告会社は平成一〇年三月一四日に商号を「株式会社ミシュラン」から「サンブランチ株式会社」に変更し、同月一七日にその旨の変更登記が経由されたことが認められる。

したがって、一審原告の請求のうち、一審被告会社に対して商号の抹消登記申請を求める部分は、もはや理由がない。

しかしながら、一審被告会社が商号を変更したとしても、一審被告会社がその営業について本件商品等表示を使用するおそれが全くなくなるわけではないから、一審原告の請求のうち、一審被告会社に対して本件商品等表示の使用禁止を求める部分は、なお理由があるというべきである。

四  一審原告の損害賠償請求の金額について

一審原告は、当審において、一審被告らに対して賠償を求める金額について、第一次的に法五条二項所定の金額、第二次的に法五条一項所定の金額と変更した。よって、まず、一審原告の一審被告らに対する法五条二項所定の金額の支払請求の当否について検討する。

1  一審原告は、一審原告の「ミシュラン」の表示が持つ顧客誘引力は極めて高いから、本件商品等表示の使用許諾料は一審被告会社の売上高の一〇%とするのが相当である旨主張する。

しかしながら、一審原告の業務内容(前に引用した原判決認定のとおり、タイヤの製造販売及びヨーロッパのレストランのガイドブック等の販売である。)と本件商品の販売との間には何らの親近性もないこと、本件商品が極めて廉価な食品であって、一般客がその製造者あるいは販売者に関心を持つのはまれであると考えられること等に鑑みると、本件商品に本件商品等表示を使用することによって生ずる顧客誘引力が極めて高いと認めることはできない。

その半面、一審原告の「ミシュラン」の表示が世界的に著名なものであることは前記のとおりであるから、本件商品等表示が本件商品の売上げの増加に寄与していないと考えるのも不合理である。したがって、仮に一審被告らが一審原告から本件商品等表示の使用許諾を得ようとすれば、相当の使用許諾料の支払いを求められるであろうことも否定しがたいところである。

以上のような事実を総合して、当裁判所は、本件商品等表示の使用許諾料は、一審被告会社が得た利益のうち本件商品等表示と関わりのある部分の一五%が相当であると判断する。

2  そこで、一審被告会社が得た利益のうち本件商品等表示と関わりのある部分を検討するのに、まず、乙第二ないし第六号証(決算報告書)によれば、一審被告会社は平成四年一一月一日から平成九年一〇月三一日までの間に合計金六二六九万五〇七九円の利益を得たことが認められ(原判決三五頁一行ないし八行参照)、これを年平均すると、金一二五三万九〇〇〇円となる(金一〇〇〇円未満は切り捨てる。以下同じ。)。

一方、一審被告会社がその製造する本件商品に本件商品等表示を使用して販売した期間を特定するに足りる証拠は存在しないが、その始期を、一審被告会社が「株式会社ミシュラン」の商号で設立登記された平成三年四月三日とすることには一応の合理性があると考えられる。また、甲第一二号証(ラベル)によれば、一審被告会社は平成一〇年五月一日には本件商品等表示を記載したラベルを使用していたが、同月一二日には「サンブランチ株式会社」と記載したラベルを使用していることが認められるから、一審被告会社による本件商品等表示の使用の終期は平成一〇年五月一〇日ころとするのが相当である。

そうすると、一審被告会社が本件商品等表示を使用した期間は約七年一か月ということになるから、この間に一審被告会社が得た利益は金八八八一万七〇〇〇円と算出することができる。

3  ところで、乙第二五、二六号証(純売上高推移グラフ)によれば、一審被告会社の売上高の約一〇%は居酒屋「美酒蘭」に係ることが認められる(なお、乙第一一号証参照)。そして、この居酒屋の営業に関して本件商品等表示が使用されていた事実を認めるに足りる証拠はない(ちなみに、「美酒蘭」は「ビシュ・ラン」と発音されるのが普通であって、これが「ミシュラン」と発音されることは極めてまれであると考えられる。)。

この点について、一審原告は、居酒屋の一般客はともかくとして、居酒屋への商品の納入業者は、一審被告会社の旧商号を知悉して取引きを開始し継続した旨主張する。

しかしながら、前記居酒屋への商品の納入業者が、実質上は一審被告三枝の個人企業である一審被告会社の実態を把握することなく、一審被告会社を一審原告そのもの、あるいは一審原告と営業上の密接な関係がある会社と誤信して取引きを開始し継続したと考えることはとうていできない。

また、乙第二三号証(自社シール 他社シール/売上比較表)によれば、一審被告会社が製造販売する本件商品のうち約三八%には、一審被告会社のラベル(本件商品等表示が表されているものと解される。前掲甲第一二号証参照)が貼付されていなかったことが認められ、これに反する証拠は存在しない。

そうすると、前記の一審被告会社が得た利益金八八八一万七〇〇〇円のうち本件商品等表示の使用と関わりを有するのは、次の式のとおり、金四九五五万九〇〇〇円であると認めることができる。

8881万7000円×0.9×0.62=4955万9886円

4  よって、一審被告らは、右金四九五五万九〇〇〇円の一五%に相当する金七四三万三〇〇〇円を、連帯して一審原告に支払うべき責任がある。

5  次に、一審原告の第二次的請求について検討すると、一審原告が法五条一項の規定に基づいて一審被告らに請求しうる金額は、一審被告会社が得た利益の額の全部ではなく、一審被告らが「侵害の行為により」得た利益の額、すなわち、本件商品に本件商品等表示を使用したことによって、これを使用しなかった場合よりも売上げが増加して得た範囲の利益の額であることは、法の規定上明らかである。

ところで、一審原告の第二次的請求をそのまま肯認するに足りる証拠はない。かえって、本件商品が極めて廉価な食品であること、一審被告会社が本件商品等表示を使用した具体的態様が極めて控え目なものであること(一審被告会社は、本件商品等表示を、本件商品の販売店の店名として使用したり広告したりしたわけではなく、ただ、最下部に本件商品等表示が横書きされている小さな方形のラベルを本件商品の一部の底部等に貼付して販売したにすぎない。前掲甲第一二号証参照。)、一審被告会社から本件商品の卸売りを受けていた販売業者らが、一審被告会社を一審原告そのもの、あるいは一審原告と営業上の密接な関係がある会社と誤信して取引きを開始し継続したと考えることはとうていできないこと(この点は、前記の居酒屋への商品の納入業者の場合と同様である。)に鑑みれば、本件商品に本件商品等表示を使用したことによって売上げが増加して得た範囲の利益の額が、一審被告会社が得た利益の額の一五%を超えるものとはとうてい認め難いところである。

第二  附帯控訴事件について

前項において説示したとおり、一審原告の一審被告らに対する損害賠償請求は金七四三万三〇〇〇円の限度においてのみ理由がある。

よって、一審原告の附帯控訴は、理由がない。

第三  以上のとおりであって、一審被告らの控訴は一部理由があるが、一審原告の附帯控訴は理由がない。よって、一審被告らの控訴に基づいて原判決を本判決の主文一項掲記のとおり変更するとともに、一審原告の附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担、仮執行の宣言びに上告及び上告受理の申立てのための期間付加について民事訴訟法六七条、六四条、六五条、二五九条一項、九六条二項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日平成一〇年一二月二四日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例